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ソマティック心理学協会誌 voss

ソマティック心理学協会誌 voss (2018年3月22日)

(2018年3月22日)

心のゆがみと体のゆがみ

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取材 本院 鈴木院長が取材されました!

ソマティック心理学協会誌 voss 2018年3月


はじめまして、健療院グループの鈴木直人と申します。まだまだ若輩者ですので読みにくいところがあると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。
「『うつ・自律神経』を整体で改善させる」というと多くの方は疑問に思うらしいですが、今回は心と体は具体的にどのようにつながっているのかを心理作用と生理作用を交えながらお話しさせていただこうかと思います。




1.感情の抑圧と筋トーヌスの亢進

心がストレスを感じると、怒りや悲しみなど色々な感情が出てきます。この湧き出る感情を抑圧するときには筋肉を緊張させるといったのはウイルヘルム・ライヒです。このことと生理反応を組み合わせることで、心のゆがみと体のゆがみがつながっているのが論理的に理解できると思います。


まず知っておいてほしいのは、地球上に生きている限り我々は必ず重力の影響を生理的に受けるということです。そして、これは神経系にも大きな影響を与えています。簡単に言うと、その人の荷重の中心に近い神経は興奮し、離れると鎮静します。例えば、右足に体重をかけて立っていると、荷重は右になりますので右半身の神経系が興奮し、左半身は鎮静します。


その結果どういうことが起きるかというと、右半身は力も入れやすいし感覚も感じやすくなり、左半身は力も入れにくいし感覚も感じにくくもなるということです。筋肉にはリラックスしていてもある程度の緊張があります。これを筋トーヌスと言います。筋肉は柔らかい方がいいと思いがちですが、柔らかすぎるのは「筋トーヌスの低下」といい不健康な状態です。ですから筋肉はトーヌス亢進(筋緊張が高い)でもトーヌスの低下(筋緊張が低い)でも不健康な状態なのです。


そしてこのトーヌスは先ほどお伝えしたように、右に体重がかかっていると右半身の筋トーヌスが高まり、左半身の筋トーヌスは低下します。筋トーヌスが高いということは筋肉に力を入れやすいということであり、感情の抑圧をする時にはこのトーヌスが高い筋肉で抑圧することになります。なぜなら、その方が感情を抑え込みやすいからです。つまり、右側に体重がかかっていれば右半身の筋肉で感情を抑圧することになります。


ところが、人の体はそんな単純ではなく、下半身は右に荷重がかかっていますが、バランスを取るように上半身は左に荷重がかかる場合もあります。つまり、感情の抑圧には下半身は右の筋肉が緊張し、上半身は左の筋肉が緊張するということになります。


これが右と左だけではなく前と後ろでも同じことが起きます。日常を生きていれば感情の抑圧を多々することとなり、そのたびにトーヌスが高い筋肉ばかりが緊張することになります。


2.筋トーヌスが乱れると......

そして、トーヌスが高くなった反対側の筋肉(拮抗筋)は相反抑制という反射によりトーヌスが低下します。例えば左肩を上げる筋肉である左の僧帽筋のトーヌスの亢進は、左肩を下げる筋肉である左広背筋のトーヌスの低下が起きます。


体のゆがみというのは、この筋トーヌスの亢進と低下の組み合わせで起こるのです。また、筋肉は緊張すると骨に張り付くようになるため、筋肉内や筋肉と骨との空間が狭くなっていきます。すると血液やリンパ液などの流れが悪くなってしまうのです。


多くの場合、ストレスがあるから体調が悪くなるのではなく、ストレスがあった時に湧いて出てくる感情を抑圧するので体調が悪くなるのです。なぜなら感情の抑圧がたくさんあるほど筋肉のトーヌスの亢進と拮抗筋のトーヌスの低下が進み、体のゆがみがひどくなっていくからです。そしてその結果、生理機能(新陳代謝や恒常性機能)が低下して生物としての正常の働きができなくなってしまい様々な症状が作られるのです。


また、感情の抑圧は動きの抑圧でもあります。感情を外に出すときは何らかの感情表現があります。そして、それはほとんどの場合筋肉を使って行われます。感情を抑圧するときにはこの感情表現の動きも抑圧されます。この際、本来動くべきであった筋肉の拮抗筋を緊張させることで動きを抑圧します。例えば、怒りが湧いてきて目の前の人を突き飛ばしたいと思っていても、そんなことはしていけないと突き飛ばす動きを抑圧することがあったとします。


この時、手を前に出して突飛ばそうとする筋肉が緊張するとともに、そんなことはしてはいけないと手を引っ込める筋肉も緊張します。先ほどお伝えした相反抑制を打ち消す不自然な筋肉の緊張が起こるのです。ちなみに、この緊張にはエネルギーの元であるATP(アデノシン三リン酸)が使われます。突飛ばすための手を前に出す筋肉の緊張にATPが消費され、手を引っ込めるための筋の緊張にもATPが消費されます。


すると感情表現をするよりも抑圧する方がATPを2倍消費することになります。ATPは生理機能にも使われるエネルギー源ですので、ATPの量が少なくなれば生理機能が低下してしまうのです。感情を抑圧したときに疲れを感じると思いますが、これはATPを2倍使っているからなのです。後ほど話がつながってくるので覚えていてほしいのですが、このATPは酸素がないとたくさん作れないのです。そのため、酸素がきちんと細胞に届かないとATPがたくさんあっても作れない、生理機能が低下し疲労感や意欲の低下、その他にも様々な症状へとつながるのです。


3.筋トーヌスと第一次呼吸メカニズム

オステオパシーという手技療法の世界では、呼吸は体全体でしていると言われています。ウィリアム・サザーランドが1899年に頭蓋骨がまるで呼吸をするように膨らんだり元に戻ったりしていることを発見し、その後それは体全体で行われていることが分かりました。


現代医学では呼吸は肺が膨らんだり元に戻ったりすることから始まりますが、オステオパシーの世界では体全体が膨らんだり元にもどったりしており、これは肺呼吸より前(つまり胎児のとき)から行われておりとても重要な動きになります。これを第一次呼吸メカニズムといい、この原理を使ったセラピーで有名なのはジョン・アプレジャーが考案したクレニオ・セイクラル・セラピーではないでしょうか。クレニオ・セイクラル・セラピーなどでは頭蓋骨の動きや背骨・仙骨・尾骨の動きを回復させることをしておりますが、第一次呼吸メカニズムではこのように膨らんだり元に戻ったりする動きは体全体であるとします。


これはエネルギーを体の中で循環させるために行っているのですが、筋の緊張があると膨らんだり元に戻ったりする第一次呼吸の動きの妨げとなります。また、先ほどお伝えした筋トーヌスの亢進や低下の情報は小脳に入力されますが、小脳は血管のコントロールもしているところでもあります。


そのため、筋トーヌスの異常低下や異常亢進の小脳への入力は、血管のコントロールも妨げることとなり肺呼吸で細胞に運ばれてくる酸素量も低下してしまうのです。すると、先ほどお伝えしたエネルギーのもとであるATPが生産されにくくなるのです。


また、この逆パターンとして、体の疲労などで体のゆがみがある場合、既にそこには筋トーヌス亢進の強い筋肉があります。すでにこの状態でATPが過剰に消費されていますが、その場所では感情の抑圧がしにくくなります。なぜなら、これ以上の筋の緊張ができない場合は感情の抑圧がしにくくなるからです。


体が疲れていると笑って許せることも怒りを感じたり悲しくなったりすることがありますが、これは筋肉の緊張が続き疲労しているため、それ以上の筋肉の緊張ができなくなっているため、抑圧できずについ感情が出てしまうのです。つまり、筋疲労で感情を抑圧できなくなっているのです。ですから、マッサージや整体などである程度スッキリする理由は、筋肉をほぐすことで感情を抑圧できる余裕が筋肉に生まれるからなのです。


4.心理作用と心理作用のまとめ

感情の抑圧の前に色々な心理作用があると思いますが、具体的に体の影響するときには感情の抑圧があります。その後、筋トーヌス亢進、ATP過剰消費、第一次呼吸メカニズムの機能低下、血流不足による細胞の素不足、ATPの生産低下、新陳代謝や恒常性機能の低下などが起こります。

その結果として様々な体や心の症状へと繋がっていくのです。酷くなると何年もうつで家から出られない人さえいるのです。

最後に:ソマティックスの可能性

私がカイロプラクティックやオステオパシーなど、主に解剖学や生理学などをベースにした体の専門家として'体だけの治療'に違和感を覚えたのが20年前。私自身がうつになったのがきっかけでした。


その時から心のことを学び始め、行きついたのがソマティック心理学でした。今でも学び続けている理由は大きな可能性を感じているからです。ソマティック心理学協会の設立時から色々な活動に参加させていただいておりますが、多種多様な手法や分野のそれぞれがどれも素晴らしく、そしてお互いに時には広く時には深く学びあっていることにとても大きな可能性を感じています。


ソマティック心理学協会は、4年の歳月をかけて以前よりも認知が進むとともに活動の幅が広くなっていることに私はうれしく思います。会長の久保さんを含めて運営に関わっている方には頭が下がる思いです。しかし、依然として'マニアックな世界'に留まっていることもまた一つの事実です。


若輩者の私がいうのは大変おこがましいのですが、ソマティックスが広がりつつあるこの勢いを止めてはいけないと思っています。マニアックな世界で終わらせないためには、我々一人ひとりが理想を追い求めつつも社会に沿った様々な形で具体的な貢献をしていくことが重要だと思っています。最後になりましたが、多くの学ぶ機会や出会いの機会を提供していただき、久保さんを含めて協会運営に関わっている方々にとても感謝しております。今後ともよろしくお願いします。


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